クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「なんで、なんでよ。私にだけ優しくなくて、イライラするって言うくせに。……っ、なんで、いつも私が泣きたくても泣けないときに……そばにいるの?」

 苦しかった。悲しくてつらいのに、ナイトが死んでも泣けない自分。薄情だと自分を責めた。

 そんな私の前に幹弥は現れて、言葉とは裏腹に、ぶっきらぼうな態度は優しいから。私の涙腺をあっという間に緩ませる。泣かせてくれる。

 そんなことをされたら、手放せなくなる、諦められなくなる。もっと欲しくなる。

 思いの丈をぶつけて、幹弥にもたれかかりながら私は肩で息をする。幹弥はどう思ったんだろう。どんな反応をされるのか怖くなりながら、少しだけ胸のつっかえがとれたことに安堵した。

 シャワーの音だけがバスルームに響く。

「……自分以外の人間は、全員馬鹿なんだって思っているときが俺にもあった」

 ぽつりと呟かれた幹弥の一言に私は動きを止める。ゆるゆると顔を上げて幹弥を見つめると、いつもより深い色を宿した瞳に捕えられる。

 濡れた髪先から滴が滴り、妙な色気があって私は息を呑んだ。

「生まれたときから、自分の進む道は決められていて、そんな俺に周りがなにを求めているのかもわかっていた。だから、ずっと俯瞰したつもりで、自分を作りながら内心では見下して。でも足掻くことも馬鹿らしくてできなかった」

 そこまで告げて、幹弥は軽く息を吐くと私の頬にゆっくりと手を伸ばしてきた。長い指先がそっと触れて、それだけのことに今更、すごく緊張する。
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