クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「本当は、ずっと帰したくなかった。なにも残さずに、涼しい顔で律儀に帰る優姫に不安になったりもした。でも、もう帰したりしない。ひとりになんてさせない。だから、結婚しよう」

 あまりにも衝撃的な発言に、甘い雰囲気は吹き飛び私は目を白黒させた。幹弥を見上げたまま冷静に口を開く。

「そこは普通、『付き合おう』じゃないの?」

「どうせ結婚するのに、付き合う時間がもったいない」

 どれだけ効率主義!? それは声にしなかったけれど、戸惑う私を見て、幹弥は別の意味に捉えたらしい。 

「両親のことなら心配いらない。優姫なら大歓迎だ」

「ちょっと待ってよ、根拠もなくそういうこと言うのやめて」

 いくら幹弥が後継者としての実力が十分だとはいえ、私では不釣り合いすぎる。そう言い返したかったのに、幹弥はまったく動じていない。

「根拠はある。両親は、うちの猫を溺愛しているから」

「猫?」

 話が飛び過ぎて理解できない。対する幹弥はおかしそうに私の額に唇を寄せた。

「妹が高校生の頃、猫を拾ってきたんだよ。真っ白な子猫で、最初は両親も飼うのを反対したけれど、妹が譲らなくてね。なんでも、ある女子大生が、自分のことを顧みずに木に登って子猫を助けたらしいよ。妹に託して、さっさとその場を後にしたから名前も聞けなかったって悔やんでたけれど」

 どこかで聞いたことのあるエピソードに私は信じられない気持ちでいっぱいになる。そんな偶然、あるわけない。でも、幹弥の言い方はやけに確信めいていた。
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