クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「桐生、久しぶり。弘瀬先生から聞いたんだけど、開発経済論を担当してくれるんだって?」

「ああ。講義の仕方とか、わからないことがあったら相談に乗ってくれると助かるよ」

「相談に乗れるほど俺も上手くないけどな。にしても同期がこうして三人も揃うなんてすげーよな。機会あれば飲みに行こうぜ」

 私は軽く肩をすくめた。すると、なぜか一馬が改めてこちらにじっと視線を寄越してくる。

「なに?」

 短く尋ねると、一馬は笑った。

「いや、ユウが男と並んでるの、あんまり見ないからさー。そうして見ると、お前もなかなか普通の女子に見えるな」

 一馬はなにげなく私の頭に触れた。この触れ合いに他意はない。もうとっくに知っている。

「一馬、こんな調子でなにげなく学生さんに触ったらセクハラだからね」

 そう言うと、一馬はおののいたように触れていた手を引っ込めた。

「うおっ。それは洒落にならねぇから、マジで気をつける。でも、ユウも少しはマシになったよな。な、桐生?」

 そこで幹弥に同意を求めるように一馬が告げたので、無意識に顔が強張る。けれど幹弥は相変わらず人のいい笑みを浮かべたままだった。

「どうだろう。片岡さんは、昔から素敵だと思うけどね」

「うわっ。やめろよ、桐生。コイツはそういうお世辞に慣れてないから、マジに受け取るんだって」

 今の私の格好は、チェック柄のカットソーにグレーのスカートと仕事着とはいえ地味だ。薄化粧で髪もうしろでひとつに束ねているだけ。だから一馬の発言に噛みつくこともしない。

「もう、あんたさっさと会議に行きなよ」

 私は自分の腕時計に目をやる。けれどそこで一馬も思い出したように焦り始めた。短く私たちに挨拶して、その場を颯爽と去っていく。
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