クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 あんなことを言ったけれど、一馬の学生からの人気はなかなか高い。幹弥も含め、同じゼミの同期だけど、私とは中学からの知り合いで付き合いも長い。

 大学を卒業後、他大学の大学院に入り、今年度から新任講師としてまたここに戻ってきた。この腐れ縁を、お互いにもう笑い飛ばすことしかできない。

 一馬が去った後、私たちの間に再び沈黙が降ってくる。とくに会話もなく目的の部屋にたどり着き、電気をつけて私はようやく幹弥に話しかけた。

「部屋自体は初めてじゃないでしょ?」

「そうだね。木曜三限も、たしかここだった」

 “木曜三限”という言葉に私は少しだけ動揺する。けれど、彼にとっては事実を述べたまでできっと意味はない。

 それにしても十年も前のことを彼も、私もよく覚えているものだ。この部屋は講義室の中では大きい方で、設備も新しい。

 私は舞台みたいになっている壇上に上がり、教壇に近づくと部屋の説明を一方的に始めた。

「スクリーンやモニターのスイッチは全部、このリモコンでできるから。パワーポイントとかのケーブル一式はこの引き出しの中ね。マイクはできれば外部講師用の準備室に置いとくけど、準備できてなかったら下の事務まで取りにきて。それから――」

「片岡さんは、恋人とかいるの?」

 藪から棒の質問に私は説明を中断せざるをえなくなった。

「なんで?」

 そんなことを聞くの?という続きの言葉を悟ったかのように彼は笑った。どこか冷たくて、なにかを含んでいるような。
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