クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「遠慮しなくてもいいよ。べつに誰か待ってるわけでもないんでしょ」

 その通りではあるんだけれど、有難迷惑だ。もう一度断ろうとしたところで先に彼が「ほら、立って」と告げ、腕を伸ばしてきた。

 身構えるのと同時に嫌悪感が走ったけれど、すぐに両肩に遠慮のない手の重みと温もりを感じる。

「お待たせ。ごめん、接待が長引いて」

 聞き慣れた声に硬直して目を白黒させる。それは、私に声をかけていた男性も同じだった。斜めうしろにひねって向けていた首を、真うしろを見上げる形にして声の主を確認する。

 乱れひとつない上質なスーツをきっちり着こなしている幹弥が微笑んでいる。どうして彼がここにいるの? そんな疑問顔の私を幹弥はまるっと無視して肩に置いていた手を私の頬に移動させた。

「こんなに冷えて、風邪でも引いたら大変だろ、ほら、行こう」

 優しい口調なのに、逆らうことを許さないような瞳。おかげで私は命令されたわけでもないのに渋々と立ち上がる。

 完全に無視されたからか、さっきまでいた男性はいつの間にかいなくなっていた。

 幹弥はため息をついて、ベンチの前まで回って来ると、強引に私の手を引いて歩き出した。

「自分がどういう状況に置かれていたか自覚ある? こんな時間に女性があんなところでひとりでいたら、声をかけてくれって言ってるようなもんだろ」

 こちらを見ないまま、前を歩く幹弥は不機嫌そうに告げた。私は自分の置かれていた状況よりも、今目の前で起きていることの方がよく理解できていない。どうして彼が私の手を引いているのか。
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