クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 彼のマンションに着いて、部屋のドアを開けるまで、幹弥は私の手を離さなかった。そこまでして捕まえておいてどうする気なの? なにを必死になることがあるの?

 そんな疑問はすぐに吹き飛ぶ。玄関のドアが閉まったのと同時に、繋がれていた手はあっさりと離され、私はドアに押しつけられた。痛みで眉をしかめたけれど、すかさず唇を塞がれ、逃げないように体に腕を回される。

 性急で、貪るような口づけに、心臓が破裂しそうになる。

「ん……う、んっ」

 勝手に漏れる声に、耳を塞ぎたくなって、場所が場所なのを思い出す。ドア一枚隔てたそこは、高級マンションとはいえ、共有スペースだ。

「まっ……て、私」

 キスの合間になんとか言葉を紡ごうとするも、幹弥は全然聞き入れてくれない。強引なくせに私の髪に指を滑らせ、器用にも優しく髪を耳にかける。

 やっと解放されたときには、息が上がり、うずくまりそうになるのを彼に支えられた。

 なにか言わないと、と思ったところで、膝下に腕を入れられ突然体が宙に浮く。はずみでパンプスが脱げて広い玄関に転がった。

「幹弥っ!」

 非難するように彼の名前を呼ぶ。すると彼の動きが心なしか止まって、すぐそばにあった幹弥と視線が交わる。

 けれど彼はなにも言わない。そしてなんでもなかったかのようにそのまま部屋の中に足を進められ、私は混乱した。

 まったく意識していなかったけれど、再会して私が彼の名前を呼んだのはこのときが初めてだった。
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