クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 この飲み会から、気づけば私のゼミでの呼び名は「ユウ」になった。元々あまり自分から喋るタイプではないけど、人見知りをするタイプでもない。

 それに一馬が高校の頃の話と称して、私の話もゼミでよくしたからか、ゼミのメンバーとは、わりとすぐに打ち解けられた。

「昨日のドラマの最終回見た? めっちゃ泣いたんだけど」

「見た見た。水無月(みなづき)リョウがカッコよすぎた」

 ゼミが始まる前の休み時間、なにげない会話が繰り広げられる。こういうところは高校のときとノリは変わらない。

「私もー。ユウも見た? 泣けたよね」

 ふと、隣の席から自分に話題を振られて私は首を横に向ける。

「私は……」

「泣くわけないだろ、鉄の女が」

「一馬」

 遮るように前から口を挟まれ、私は眉をひそめた。ゼミは長机がロの字型に並んでいる配置で、正面とはわりと距離があるのに、わざわざ話に入って来なくても。

「えー。わかんないよ。そんなユウも泣いちゃうほど、あのドラマはよかったかもしれないじゃん」

 私の代わりに左隣の席の真紀が答える。少し声を張り上げる形になるのはしょうがない。一馬は、わざとらしく背もたれに体を預け、頭のうしろで両腕を組んだ。

「どうだかなぁ。まぁ、すぐに泣く女よりユウのそういう男らしいところが俺は気に入ってるから」

 その発言を、私はどういう気持ちで受け取ればいいのか答えが見つからない。ただ、確実に小さな痛みは呼び起させる。真紀はわざとらしく手で口を覆うと、おどけた口調で返した。

「江頭くんって、やっぱりユウを愛しちゃってるんだ」

「ま、男としてだな」

「男でもないし、女なのに男らしさを褒められても全然嬉しくないんだけど?」

 ここで、ようやく私はいつもの口調で一馬に返すことができた。
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