クールな御曹司の蜜愛ジェラシー

「そうか、お前女だったよな」

　お決まりのやりとりに、なんて返そうかと思ったところで、一馬が席を立って部屋を出たので、やりとりは終了した。はーっと息を深く吐いたところで、隣から袖をちょんちょんと掴まれる。

「ユウってさ、本当に江頭くんとは付き合ってないんだよね？」

　私はうんざりした顔で手を振った。

「何度言わせるの、付き合ってないよ」

「なら、私が江頭くんのこと狙ってもいい？」

　真紀からの会話のパスが上手く受け取れず、私は何度も瞬きを繰り返した。彼女はにこりと綺麗に笑った。

「江頭くん、話も面白いし気さくで、いいなーって。ユウが協力してくれたら心強いんだけど……」

　いくつもの返答の言葉が思い浮かぶ。ぐるぐると混ざるような感情に、思考が錯綜する。

「……うん、いいよ」

　そんななか、私が結局口に出せたのはなんとも無難な、いや当然の回答。途端に真紀は花が咲いたように笑う。代わりに私の胸は嘘の重たさで痛みだす。

　でも、これで間違っていない。私は必死に言い聞かせた。

　そこでチャイムが響き、四限の始まりを知らせる。持ってきていたノートパソコンを起動させたところで、私はなにげなく視線を感じた。

　演習室の端から端までさっと視線を走らせると、思いがけない人物と目が合う。いつも温厚で柔和な笑みを浮かべている桐生くんがどこか冷めた目でこちらを見ていた。

　しっかりと目線が絡み合い、先に逸らしたのは彼の方だ。偶然？

　頭の上にクエスチョンマークが浮かぶも、彼は隣に座っていた山下さんに話しかけられ、すぐに笑顔を向けていた。

　私が、なにかしたのだろうか。思い当たる節が浮かばずに、今度は戸惑いが体中に広がっていく。桐生くんとは、あの飲み会以来、ゼミでのやりとりを含めても、ほんの数回しか会話していないのに。