クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 私はサークルには所属せず、家庭教師のアルバイトをしながら学生生活を過ごしていた。そして、空いている時間によく大学の図書館に足を運んだ。

 五階建ての図書館は、比較的新しく建てられたものらしい。一般開放もされていて、夕方には高校生の姿もちらほら見かける。

 一階は新聞観覧のコーナーやパソコンを使えるスペース、資料などがおいてあり、二、三、四階にはジャンル毎に大量の図書が所狭しと並ぶ。

 上の階に行くほど専門書となり、人口密度は下がる一方だ。五階はイベントホールとなっていて、講演会や大学の研修会、発表会などで週末に利用されることが多かった。

 私はこの五階のホール前に設けられたソファスペースで本を読むのが好きだった。長い赤色のソファが背中合わせにふたつ。楕円形を描くようにしてホールの扉前に設けられている。

 たまたま館内を一階から順に巡っていて見つけたこの場所は、この広いフロアはもちろん、図書館さえも貸し切りのように思えるほど静かで人の気配がない。

 木の温もりを直に感じられ、誰かを気にすることなく、のんびり本を読める。

 もうすぐ入梅しそうな五月の終わり。その日も私はソファに背中を預け、夢中で本を読んでいた。

「へー。まさか先客がいるとは」

 突然かけられた声に、反射的に背筋を正し、声のした方に振り向く。

「なん、で」

 私は自分の目を疑う。反対側のソファの背もたれに手を突き、こちらを覗き込むように見下ろしていたのは、桐生くんだった。驚いて言葉が出ない私に対し、彼はいつも通りだ。
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