クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「それはこっちのセリフ。お、なかなかマニアックな本を読むね」
いつの間にか彼は私から、持っていた本に視線を移していた。
「『Alle Liebe rostet nicht.』ドイツのヘレナ・ビンガーの作品だね。日本語訳になったのは絶版になったって聞いてたけど、ここには全巻あったんだ」
さらっと告げられた本の原題の発音の良さに少し驚き、続けてこの本を彼が知っていたことにびっくりした。彼が言うように、この本はあまりメジャーなものじゃない。
今は亡き大女優三日月今日子(みかげきょうこ)が一昔前、主演を務めた舞台の原案になった話らしい。当時、舞台の影響を受け、原作が翻訳されて発売されたが、あまり売れ行きが良くなかったのか、巻数が多かったからか、程なくして絶版になったそうだ。
私の祖母がこの舞台が好きで、何度もエピソードを聞かされた。そして後から原作の小説があると知ったのだけれど、絶版で手に入れるのは難しく読むのは諦めていた。それが、まさか大学の図書館にあるなんて。
そんな事情を口にはせず、私は彼に目を向けて、とりあえず質問を投げかける。
「桐生くんはどうしてここに?」
「さぁ?」
冷たく言い返され、私は戸惑った。いつもの彼からは想像できないような冷淡さを声にも表情にも滲ませていたから。
彼を見上げて固まったままでいた私に、桐生くんはふっと微笑んだ。けれどそこには柔らかさなんて微塵もない。どこか小馬鹿にしたようなシニカルなものだ。
いつの間にか彼は私から、持っていた本に視線を移していた。
「『Alle Liebe rostet nicht.』ドイツのヘレナ・ビンガーの作品だね。日本語訳になったのは絶版になったって聞いてたけど、ここには全巻あったんだ」
さらっと告げられた本の原題の発音の良さに少し驚き、続けてこの本を彼が知っていたことにびっくりした。彼が言うように、この本はあまりメジャーなものじゃない。
今は亡き大女優三日月今日子(みかげきょうこ)が一昔前、主演を務めた舞台の原案になった話らしい。当時、舞台の影響を受け、原作が翻訳されて発売されたが、あまり売れ行きが良くなかったのか、巻数が多かったからか、程なくして絶版になったそうだ。
私の祖母がこの舞台が好きで、何度もエピソードを聞かされた。そして後から原作の小説があると知ったのだけれど、絶版で手に入れるのは難しく読むのは諦めていた。それが、まさか大学の図書館にあるなんて。
そんな事情を口にはせず、私は彼に目を向けて、とりあえず質問を投げかける。
「桐生くんはどうしてここに?」
「さぁ?」
冷たく言い返され、私は戸惑った。いつもの彼からは想像できないような冷淡さを声にも表情にも滲ませていたから。
彼を見上げて固まったままでいた私に、桐生くんはふっと微笑んだ。けれどそこには柔らかさなんて微塵もない。どこか小馬鹿にしたようなシニカルなものだ。