クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「いつもの優しい俺じゃなくてごめんね。でも常に取り繕ってられないさ。馬鹿らしい」

「馬鹿らしいって」

　私の頭は混乱していた。彼とはあまり親しくないし、言葉を交わしたのも数えるほどだ。けれど、こんな言葉を、態度を取るような人物には思えない。

　その私の考えを打ち消すかのように、彼はおかしそうに笑う。綺麗で整った顔は、変わらない。けれど、その笑顔は皮肉めいていた。

　言葉を濁したままの私に、彼は手をついていたソファにそのまま腰掛け、私に背を向ける格好になってから、腕を背もたれにあずけ、こちらに顔を向けた。

　おかげで彼との距離が近くなり、視線が絡む。

「みんな大好きだろ。顔も頭もよくて、それでいて気さくな御曹司サマは」

　思わず目を見張る。すると彼は笑みを崩さないまま顔だけではなく体もこちらに向けた。

「傷ついた、って顔してる。いいね、その顔」

　傷ついたわけじゃない、驚いただけ。この胸の痛みはそういうことだ。そうに決まってる。私は乾いた唇をゆっくりとほどいた。

「なん、で？」

　どうして、たいして仲良くも付き合いもない、ただのゼミが同じなだけの私にそんなことを言うのか。彼の本音を、本性を、私にさらけだす理由が思い浮かばない。

　けれど彼は冷たい表情と口調で言い放った。

「見ててイライラするから」

　誰のことかなんて聞くまでもない。彼から向けられる嫌悪感が針のように刺さった。

「なに、それ。私言うよ。桐生くんがそんなふうに思ってるってこと」

「言わないよ、君は。それに言うって誰に？　江頭にでも話す？」
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