クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 必死に取り繕っているようで、全部は自分のため。桐生くんにはあっさり見抜かれていたなんて。

「イライラさせてごめん。でも、桐生くんの思っているほど馬鹿じゃないよ、私」

 言い終わると同時に、居た堪れなくなって私はソファから腰を浮かして立ち上がる。エレベーターも階段も反対側なので、私はソファを回り込むようにして歩きだした。けれど、前に気配を感じて立ち止まる。

 おもむろに顔を上げると、そこにはいつの間にか立ち上がって先回りしていた桐生くんが、どこか呆れたような表情でこちらを見下ろしていた。

 ただ、さっきまでの刺々しさはない。軽く息を吐いて彼は形のいい唇を動かした。

「よく言う。友達や自分にまで嘘をついて“いい子”を演じるんだから、やっぱり馬鹿だろ、優姫は」

 名前を呼ばれたことで思考がとっさに停止する。瞬きを繰り返して、つい耳を疑ってしまった。そんな私に対し、桐生くんはふっと微笑んだ。

 食えない、なにかを含んだような笑みだ。そのまま私の手にあった本をそっと取り上げる。

「これ、俺も読んでみたかったんだ。この時間、木曜の三限の後は俺も講義を取ってないから、また来週にでも返してあげるよ」

「それ、貸出禁止だけど」

 だから、私はわざわざこうして館内でいつも読んでいる。けれど桐生くんはゆるやかに笑った。

「普通は、ね」

 さも自分は特別だ、という口調。私は眉をひそめた。
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