クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 何度も寝返りを打ち、独特の気怠さを振り払おうと躍起になる。冷静になると、自分の家のベッドではないので、どうも落ち着かない。

 そうしていると彼がペットボトルを持って戻ってきたので、つい体を硬直させた。そんな私にかまうことなく、彼はベッドに腰掛け、体をひねるようにしてこちらに顔を向けてくる。

「水飲む?」

「……いい」

 静かに答えると、彼は軽く笑った。その笑顔はなにか裏がありそうで、いつも変に身構えてしまう。

 軽くシャツを羽織っただけで隙間から覗く鎖骨が妙な色香を漂わせていた。なにも身に纏っていない私よりもずっと。

 彼は桐生幹弥(きりゅうみきや)。私と同じ二十八歳で、誰もが名前を一度や二度聞いたことのある建設業の国内最大手、桐生建設コーポレーションの次期後継者だ。詳しくは知らないけど、この若さで、会社でも役職付きらしい。

 身内だから、というのももちろんあるんだろうけど、それを差し引いても幹弥は優秀だった。昔からずっと、同年代では誰よりも大人びていて、見ている世界もひとりだけ違っていた。

 相手を選ばず、懐に入っていける巧みな話術と幅広い知識。男女ともに好印象を抱く外見は眉目秀麗という言葉がお世辞でも分不相応にもならず、十分に相応しい。

 痩身ですらっと背は高く、やや癖があるけど艶のある黒髪に白い肌。すっと通った鼻筋に、なにもかもを見透かすような切れ長の瞳。

 それでいて愛想よく、親しみやすい雰囲気をもつ彼の周りは、いつも多くの人が集まっていた。
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