クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「大丈夫ですか?」

 猫を受け取った彼女が心配そうに聞いてきてきた。ほどけた髪をなんとか手櫛で整える。

「私は平気。猫は、どうだろう」

「目は開いていないですけど、たぶん、大丈夫だと思います」

 その言葉にホッとする。そして私は大事なことを思い出した。慌てて時計を確認して血の気が引く。

「ごめん、その子のこと、お願い!」

 言い捨てて私は駆けだした。ゼミのメンバーとの約束の時間に大幅に遅刻だ。距離も距離だけに連絡よりも先に全力疾走をして、息を切らしながら演習室にたどりつく。

「ユウ、おっせーぞ、ってお前、なんだよ、その格好」

「え?」

 一馬の怒号は、すぐに心配したものに変わる。他のメンバーも同じような表情だ。もう一方のグループも話し合いを止め、こちらに視線を寄越していた。

 部屋中の注目を浴び、私は急いで自分の格好を確認する。髪はほどけていたし走ったのもあってぐちゃぐちゃ。おまけに葉っぱまでついていた。

 服も上下共に、ところどころ汚れていているし、おまけに左手を擦りむいていた。

「これは、その……」

 しどろもどろになりながら事情を説明すると、何人かの女子に「ユウらしいー」と笑われた。笑われる、ことだったんだろうか。

「にしても、普通自分で登るか? 本当、お前女じゃねーな」

 席に着いたところで投げかけられた一馬の言葉に久々に胸が痛む。作業はほとんど終わったらしく、申し訳なさもあって私は身を縮めた。
< 58 / 129 >

この作品をシェア

pagetop