クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「吸わないで、欲しい。私、煙草好きじゃない」

「ここ俺の家だけど?」

 おかしそうに言われて私は唇を噛みしめる。まったくもってその通りだ。馬鹿みたい、なにを口にしているんだろう。独特の香りが鼻を掠め、私は体を起こした。

 ベッドの下に散乱している服に手を伸ばそうとする、けれど幹弥がベッドの端にまとめていてくれたので、慌てて体勢を変えた。

 こういう気遣いは卒なくするから余計に憎らしい。恥じらう必要もないし、恥じらうことでまたおかしそうに笑われるのも御免だ。

 彼と少しだけ距離をあけて、ベッドの端に腰かけると、余計な感情を押し殺して私はてきぱきと服を着た。

「泊まっていけば?」

「いい、帰る」

 間髪入れずに答えて、私は手櫛で髪を整えつつ、それなりに身なりを整える。すると幹弥がベッドに手をついて、こちらに身を寄せてきた。すぐ隣に彼の気配を感じたかと思えば、さりげなく腰に腕を回される。

「なら、せめてシャワーでも使っていけばいいのに」

「遠慮しとく」

 至近距離で告げられたけれど、私は彼から目を逸らさずにきっぱりと返事をした。それに対し、なにを思ったのか幹弥は私の耳たぶにゆっくりと唇を近づけ音を立てて口づけた。

「もう、しないけど?」

「っ、そういう、ことじゃない」

 甘く、痺れるような声に背筋が震える。嫌悪感混じりに返すと、彼は私から素早く身を離して「納得した」という表情になった。そして不敵に笑う。

「ああそうだった。“彼”が待っているわけだ」

 私はそれに対し、なにも答えられなかった。
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