クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「あ」

 反射的に胸元で手を握った。見れば、手の中には猫のモチーフが収まっている。どうやらチェーンが切れたらしい。さっき、木に登ったときにやってしまったのだろうか。私は訳もなく息が詰まりそうになった。

 いつになく足取りが重い。突然空いた時間をどう過ごすか悩んだ末、緊張した面持ちで図書館の五階に向かう。

 いないかもしれない、いなくていい。けれど、彼はいつもと同じようにソファに座っていた。そして私に気づくと、幹弥はからかうような口調で話しかけてきた。

「三限休講って、掲示板に貼ってあったけど、どうせ優姫は部屋に行ってから知ったんだろ?」

 私はなにも言わずに彼にゆっくりと近づく。反応がないことにか、私の格好にか、幹弥が不審そうな顔で、その場に立ち上がった。

 彼のそばまで歩み寄ると、私はネックレスのチェーン部分を持ってなにも言わずに彼に差し出した。

「どうした?……って、怪我してる?」

「これ、返す」

 左手の擦り傷に目をやった彼に私は静かに言い放った。幹弥の瞳がわずかに揺れて動揺を見せる。けれど私はかまわずに続ける。

「せっかくもらったのに悪いけど、やっぱり私には似合わないから」

 その言葉に彼の顔が歪む。

「似合わない、なんて誰に言われた?」

 冷たさを伴った声だった。おかげで一瞬だけ怯む。逃げるように私は彼から視線を下に向けた。

「誰でもいいでしょ。もうこういうのいいから! 私には似合わないって改めて自覚したの。可哀相な私が見られて満足?」

 違う、こんなの八つ当たりだ。幹弥は悪くない。それなのに――。
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