クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 次をどうするか、浜田くんたち男子が話し合っている。その間みんな、思い思いに過ごしていた。私は自動販売機のコーナーに足を運び、なにを買うわけでもなくぼーっとしていた。

 もう、帰ろうかな。

 コートも持ってきたし、このまま帰っても大丈夫な状況だ。実際何人かちらほら抜けたり、帰ったりしていたし。

 そんなことを思っていたからか、私は背後に近づく気配なんてまったく気づかなかった。ふと右頬に感じた冷たさに驚いて反射的に振り向く。

 そして、目に映った人物に動揺が隠せない。缶が勢いよく床に落ちて転がる音がする。そこには無表情の幹弥が思ったよりも近い距離でこちらを見下ろしていた。

「それ、あげるよ」

「え」

 いきなり発せられた言葉が理解できない。こうして一対一で会話するのは、ものすごく久しぶりなのに、彼はそんなこと微塵も感じさせないのが少しだけ悔しかった。

 鈍い頭を働かせ私は素直に床に落ちている缶を拾う。どうやらこれを頬に当てられたらしい。レモンのラベルが目に入る。

 拾って幹弥に再び向き合ったけど、彼の表情からは感情は読み取れない。なにもこんな渡し方をしなくてもいいのに。

 そこで彼の私に対する気持ちが見えて、傷つくよりも先にイラッとする。少なくともほかの人にはこんなやり方は絶対にしないだろう。

 お礼を言うのも癪で、かといってかける言葉も見つからず私はおとなしく手にあった缶のプルタブに指をかける。
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