クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 このとき、私の頭はやっぱり鈍かった。プシュっとなにかが破裂したような音と共に、目を瞑る。そしてすぐに肌に冷たさを感じた。

 自分の迂闊さを呪う。気体になった二酸化炭素は液体を伴って、溢れんばかりに外に飛び出た。そのほとんどは自分にかかって、もうため息しか出てこない。

「まさかそこまで、派手にかぶってくれるなんて」

 意外そうだけど、どこか冷静な声が降ってきて、私は幹弥を思いっきり上目遣いに睨んだ。

「私のことが嫌いだからって、こんな嫌がらせをしなくてもいいんじゃない?」

 彼はなにも答えない。おかげで今の自分の状況が余計に情けなくなった。私は幹弥からふいっと視線を逸らして、うつむく。

 とりあえずバッグの中からハンカチでも取り出そう、そう思ったところで、急に左手首がとられた。そして足を進めだす幹弥に頭は混乱するばかりだった。

「ちょっと」

「濡れたお詫びをするよ。俺の家、ここから近いから乾かしていけばいい」

 まさかの提案に私は目を見張る。手の中にあった缶は彼に奪われ、あっさりとごみ箱に投げ捨てられた。

「そんなのいいって。もうこのまま帰るから」

 掴まれている手をぶんぶんと振ったり、力を入れても幹弥は離してくれない。こちらを振り向きもせず、出口に向かおうとする中、ふと声がかかった。

「桐生くん?」

 声のした方を向けば既視感しかない。ああ、この光景見たことがある。幹弥を探していたのか、追いかけてきたのか、山下さんが焦った様子でこちらに声をかけてきた。
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