クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「あの、これは」

 なにも悪いことをしていないのに私は申し訳ない気持ちになって、なにか言い訳しないと、と必死になる。

 だって山下さんの表情はとても不安そうで悲しそうだった。本能的にあんな顔させちゃいけない、と思わせるような。

「山下さん。悪いけど彼女とふたりで抜けるから、幹事には上手く伝えておいてもらえるかな?」

 それなのに、幹弥は山下さんに淡々と答えた。彼女の綺麗な顔がさらに歪む。なにかを言いかけようとする山下さんを無視し、呆然としたままの私の手を彼はさらに引いた。

 ボーリング場の外に出ると濡れていることも相まって寒さが身に染みて勝手に体が震える。日が陰っているから余計にだ。

 とりあえず持っていたコートを着ようとすると、一度幹弥と手が離れた。

 私を見かねてか、幹弥はハンカチを取り出し、優しく私の髪と顔を拭いだす。おとなしく受け入れながらも、幹弥と向き合う形になった私は口を開いた。

「さっき、山下さんになにもあんな言い方しなくてもっ」

「こんなときでもまず気にするのは他人のこと? 改めて確信したよ、“いい子”を通り越してやっぱり優姫は馬鹿なんだ」

 手を休めないものの棘を含んだ言い方に、私はカチンときた。

「そもそも、誰のせいでこうなったと……」

「俺のせいだろ?」

 あっさり肯定され、返す言葉に思わず詰まる。すると幹弥はいつになく困惑した表情を見せた。

「いいから、おいで。風邪まで引かせるつもりはない」

 じゃぁ、どういうつもりなの。

 そう聞きたかったのに。私はそれ以上、なにも言えずに幹弥におとなしくついていくことにした。
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