クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 嫌みなくらい広いリビング。家具はモノトーンでまとめられ、逆にものが少なすぎて心配になる。まるで引っ越してきたばかりみたい。部屋に似つかわしくない段ボールが角で存在感を放っていた。

 皮張りの黒いソファにちょこんと座り、あちこちに視線を巡らす。暖房が効き始め、部屋の温度が徐々に上がっていく中、コーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。

「俺が誰かのためにコーヒーを淹れるなんて初めてだよ」

 うしろを振り向けば、カップをふたつ持った幹弥がおどけたように言い、こちらに回り込んできた。

 自分で御曹司なんていうくらいだから、事実なんだろう。彼にとんでもないことをさせた気になったけれど、私はやっぱり素直になれなかった。

「貴重な経験ができてよかったね」

 口から出たのは可愛くない、ひねくれた言葉だった。自分で言っておいて胸が軋む。

 けれど幹弥は気にすることなくソファの前にあるローテーブルにカップを置き、私の隣に座ってきた。わずかに右側が沈む。

 その気配から意識を逸らすようにコーヒーの湯気が立ち上るのをじっと見つめる。口火を切ったのは幹弥のほうだった。

「服は大丈夫?」

「平気。ここ暖かいし、ほうっといてもすぐに乾くよ」

「そういうとこ適当だな、優姫は」

 なにげない彼の発言にチクリと胸が痛んだ。こんなとき女子なら、たとえば山下さんならどんな態度を取るんだろう。
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