クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 視界が滲む。苦しくて息ができない。

 嫌だ、本当に嫌だ。やっと普通に話せたのに。また前みたいに戻れる気がしたのに。

 壊れる、瓦解していく。だって私は知っているから。

『心配しなくても、次辺りでフラれた男を慰めるためにベッドインはするよ。気まずくなるだけだけど』

 戻れなくなる。もう二度と。

「泣けばいいよ。嫌いな男に無理矢理抱かれて、自分が可哀相だって」

 離れた唇から紡がれる言葉は、辛辣で、最悪で、身勝手で。でも、なんでそんな優しい言い方をするの? まるで、子どもに言い聞かせるような、諭すような口調。

 彼の言う通りになるのは癪だったけれど、私は泣いてやった。もう限界だった。声を殺して、とめどなく溢れだす涙を見て幹弥は満足だろうか。私が泣く姿を見て、なにを思うんだろう。

 そっと目尻に唇を寄せられ、呼吸が止まりそうになる。

 幹弥の言う通り、私は馬鹿なんだ。こんな状況になってもろくに抵抗もしない。それどころか求めるように彼に身を寄せて。

 馬鹿にされてもいい、滑稽だって見下されてもいい。でも私が彼を受け入れるのは私が“いい子”だからっていうわけじゃない。 

 わからない、理解できない、自分の気持ちも、幹弥のことも。初めて会ったときから、ずっと。

 けれど、ひとつだけはっきりしていることがある。彼は危険だった。近寄るべき存在じゃなかった。ものすごい毒を持っていたのに。きっと私は抜け出せなくなるんだ。
< 74 / 129 >

この作品をシェア

pagetop