クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「桐生もな、優秀な学生だったから手放すのは惜しいが、桐生建設の跡取りだし、ほかの学生より色々と背負うものも大きいだろうからな。自分の意思だけじゃどうにもできないことも多いんだろう」

 私はきっと、彼の背負っているもののひとつも理解できない。元々、イレギュラーな出来事とはいえ、一年でもここに来ていなかったら、会うことさえなかった。

 幹弥にとって、この一年はどんなものだったんだろう。くだらなく、つまらないものだったんだろうか。それこそ暇を持て余すような……。

 あれこれ思いながらも、私は弘瀬先生から封筒を受け取った。一般的な白い封筒で少し厚みがある。宛名もないので本当に私宛なのか実感もない。

 先生の研究室を出て、すぐ近くの誰もいない部屋に入った。どうしてか、家に帰るまで待つこともできない。

 なにかに突き動かされるように、行儀悪いのも承知で私は端を手で破いていく。

 封筒をひっくり返して、中から出てきたのは透明のビニールの中で丁寧に台紙にかけられたネックレスだった。私が彼に突き返したあの猫のものだ。切れていたチェーンも元に戻っている。

 私は大きく息を吐いた。まったく律儀というか、真面目というか……。

 たしかに彼の手元に戻ったところで使い道に困るだけだろう。ほかの女性に渡すわけにもいかないだろうし。

 どうしてか少しだけ落胆の気持ちが押し寄せてくる。なにを期待していたのか。
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