クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「彼女ね、こんなこと言ったらなんだけど、すごく恋愛にのめり込むタイプで。前に一馬に対してもあったんだ。研究室で彼女の悩みを親身に聞いてたら、自分は特別だって思うようになって……」

 苦い思い出が過ぎる。もちろん一馬に特別扱いをしているつもりも、彼女に特別な思いを抱いていたわけでもなかった。

 けれど森さんは、すっかりその気になっていた。最終的に、一馬がはっきりと突き放す言葉を告げたのだけれど、彼女はそれから大学にしばらく来なくなった。

 その話は、学生支援課にも回ってきて、アフターケアとして私が彼女の対応をすることになったのだ。

 一馬もその一件から学生との距離の取り方について悩んでいた。学生に頼られるのが嬉しかったのもあるし、自身の甘さもあったと責めいた。

 一方、森さんの精神的なダメージも大きかったようで立ち直るのに時間もかかった。もうあんな思いはさせたくないし、して欲しくない。

「俺は彼みたいなヘマはしないけど?」

 話し終えたところで幹弥からの返答は冷たいものだった。見れば、口元は笑っているのに目は笑っていない。さっき森さんたちに見せていた顔とは大違いだ。

「彼女のため、と言いつつ独善的かつ偽善だね。自分の仕事を増やさないで欲しいから、くらい言えよ」

「そういうわけじゃ」

「なら、俺と彼女の問題で、優姫が口を出す権利なんてないと思うけど? それとも……そんな必死になるのは、自分を見ているようでつらいから?」

 言葉と共に息も詰まる。幹弥の言葉は、いちいち私の痛むところをわざわざ抉るように突っついてくる。嫌な言い方。優しくない。けれど、痛むのは全部本当だからだ。
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