クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「なにが、したいの?」

「だからデートだよ、ちょうど明日、土曜日の夕方からなら空いてるから」

「ちょっと待ってよ、私は」

 勝手に話を進める幹弥に抗議しようとしたところで、掴まれていた手がそのまま引かれて、唇を重ねられた。驚く間もなく、両肩に手を置き直され、すぐに再び口づけられる。

「それともなに、手っ取り早く、こうやって見せつける?」

 唇が離れスレスレの距離で顔を傾けたままの幹弥が意地悪く尋ねてきた。

「……っ、馬鹿。嫌い!」

 そして、私はマイクを奪い取るようにしてその場から離れる。翻弄されてばっかりだ。嫌になる。

「優姫」

 ドアに手をかけようとしたところで、やけに落ち着いた声で呼び止められ、私は無視できずに立ち止まった。

「彼女と江頭先生の件は当人同士の問題だろ。仕事熱心なのは感心するけど、下手に彼女に同調して落ち込んだり、悩む必要はないよ」

 最後の最後でそういうフォローはいらない。私のしていることはお節介で、余計なものだ。幹弥は間違っていない。だから、もうなんて返せばいいのか言葉が浮かばない。

 黙ったままでいる私に対し、彼は檀上から下りるとおもむろに歩み寄ってきた。

「優姫は馬鹿みたいに人のことばかりだから。鬱陶しいくらいにね。でもそういうところに救われる人間だっているよ」

 うしろからなにげなく頭に彼の手が添えられる。もういいよ、やめてよ。私のこと、貶めたいの? 励ましたいの?

 たった一言で、さりげない仕草で、こんなにも私の心を乱すのは、相手が幹弥だからだ。無意識なのか、計算なのか。

 引き際をちゃんと考えておかないといけないのに、深みにはまっていく一方だ。この毒から抜け出す術を知っているなら、誰か私に教えてよ。
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