クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「ナイト、いってきます」

 けれど、ちゃんと挨拶をするのは忘れない。外は寒さと共に、すっかり夕方から夜に移り変わっていた。

 そして風に吹かれたところで、再度、背中に悪寒が走る。温度差が原因なのか、寒いのに、なんだか熱い感じもする。

 やっぱり着すぎたかな。ぎゅっとコートの袖を握り、私は待ち合わせ場所へと急いだ。

 駅の出入り口は人の流れが激しい。この寒さだし中で待とうと、ドアに一直線に向かう。そのとき前方に見慣れたうしろ姿が目に入った。

 もしかして、と思ったところで、違うところから声が飛んだ。

「幹弥くん!」

 名前が聞こえ、予想が確信に変わる。人の流れに逆らうように横から現れたのは、声からして若くて可愛らしい女性だった。

 ふわふわの柔らかい茶色い髪は腰まであって、大きな瞳はキラキラと輝いている。短めのスカートから伸びる足はスラリとしていて、ファー付きの真っ白いコートは、彼女の愛らしさを引き立たせていた。

 幹弥もそちらを向き、驚いた表情を見せると、女性は、なんの躊躇いもなく彼の右腕に自分の腕を絡めて距離を縮めた。

 白い頬を赤く染め、甘えるような顔を見せる。そして幹弥も無理に彼女の腕をほどこうとはしない。私は何度も瞬きを繰り返して、即座に回れ右をした。

 じわじわと広がっていく感情に押し潰されそうになる。しっかりしなくては。驚くことでもない、昔から彼の周りには綺麗な女性がいて、私にするのと同じように、それ以上に大切で、関係のある女性はたくさんいた。

 だから今更の事実に傷つくことも、心が揺れることもなにもない。それこそ、わかっていたことなのに。
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