クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 連絡先を聞かれて、返すと言われたけれど、そこまでの代物でもないので丁寧にお断りする。

 元々念のために重ね着してきたものだし。早々に立ち去ろうとその場に背中を向けたところで、視線の先にいた人物と目が合った。

「幹弥」

 小さく名前を呼ぶと、呆れたような表情を浮かべて、マフラーをほどきながら彼もこちらに歩み寄ってくる。私服姿を見るのは、すごく久しぶりでつい懐かしく思えた。

 いつも大学で見かけるのはスーツ姿だけれど、今日はシャツに白のケーブルニットを重ね着して黒のパンツにトレンチコートを羽織っている。

「公衆の面前で脱ぎ始めるから、なにをするのかと思えば」

「ちょっと、その言い方やめてよ」

 口を尖らせながらも、とりあえずコートを着ようとしたところでブルーブラックのチェック柄のマフラーが包み込むようにして首にかけられた。

「風邪引いたらどうするんだよ。いくら優姫が馬鹿でもこの寒さは洒落にならないだろ」

 一言も、二言も多い。けれど、自分のしていたマフラーをはずして、私のためにかけてくれたのかと思うと、強く言い返せない。安心するような、ざわつくような香りに頭がくらくらする。

「大丈夫、むしろ熱いくらいで……」

「熱い?」

 幹弥が怪訝そうな顔になる。あれ、そう言えば妙だ。体はなぜか火照っているのに、手足が異様に寒く感じる。そう思ったときに額に彼の冷たい手が置かれて私は体をすくめた。

「外にいたくせに熱い。いつから?」

「わかんない」

 詰め寄るように問いかけられ、私は正直に答えた。指摘されて、自覚したからか急に体が重く感じる。
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