クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 幹弥のマンションにつくと、真新しいシャツが差し出されたので、ぎこちなく受け取る。とにかくもう今は横になりたい。

 覚束ない手つきで着替えると、早々にベッドに寝かされることになった。見慣れたような、うちとは違って高い天井が目に入る。けれど世界が回っているような感覚で、思わず眉をしかめる。

 そのとき部屋がノックされてちらりと視線を送ると、ミネラルウォーターのペットボトルと薬を持った幹弥が現れた。

「まったく……。体調悪いのに、人に施してる場合じゃないだろ」

「あの子に風邪移ったりしないかな」

 風邪を引かないように、と思ったのに返って、余計なことをしてしまったかも。やっぱり私はどこまでいってもお節介なうえ空回ってばかりだ。

 幹弥も呆れているに違いない。現に、こうして彼に迷惑をかけてしまっている身としては、なにを言われても反論の余地もないけど。

 けれど幹弥はそれ以上なにも言わなかったので、ゆっくりと上半身を起こし、薬をもらうことにした。体はだるいし熱いけれど、そこまで熱は高くない気がする。

 早く効きますように、と祈りながら薬を嚥下して、残った水を彼に手渡した。

 幹弥はサイドテーブルに一式置くと、ベッドの端に腰かけてこちらを向き、視線を合わせてきた。

「そもそも、体調悪いなら無理することなかっただろ」

「……うん、迷惑かけてごめん」

「そういうこと言ってるんじゃない」

 突っぱねたような言い方はいつものことだけれど、刺々しさはない。それから、幹弥は私に背を向け、幾分か言いよどんから静かに続けた。

「優姫が無理したのは、俺が交換条件みたいにして、約束を守るか心配だったから?」

 窺うように尋ねられ、思い至った。もしかして、幹弥は私が体調を崩したことに対していくらか責任を感じているのだろうか。
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