クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「それもある……けど、それだけじゃない」

 やや掠れた声で返すと、幹弥は再びこちらに顔を向けてきた。意表を突かれたような表情に、今度は私が伏し目がちになって彼から視線をはずす。

 たしかに約束の件があったのも大きい。とはいえ、行きたくなかったら真面目に足を運んでなんていない。

「ちょっとだけ、楽しみにしてたから」

 意識せずとも本音が漏れて、慌てて口を閉じた。違う。この言い方じゃ誤解を招く。幹弥と会うことを楽しみにしていたわけじゃない。そうじゃなくて。

「だって私、デートしたことなくて……」

 『デートしよう』なんて言われたことない。待ち合わせをして、そこからなにをするのかなんて見当もつかない。

 でも、そんなふうに誘ってもらえて、少しだけ嬉しかった。女扱いというか、なんというか。だからって、誰でもよかったのか、と言われればそんなことは絶対にないんだけど。

「したことない?」

 不思議そうに聞き返され、私は、はたと気づいた。取り繕うように紡いだ言葉だけれど、よく考えれば、彼に馬鹿にされるようなネタを与えただけなのでは。

 顔が熱くなるのは熱のせいなのか、羞恥のせいなのか判断がつかない。私は勢いよく体を横たわらせ、隠れるようにベッドにもぐる。

「デートしたことないって……今までほかの男とは?」

「もういいでしょ。私は幹弥とは違うの!」

 追究の手を緩めない彼に、私はなかば自棄になって叫んだ。常にそばにいる異性に困らない幹弥と私は違う。

 大学を出て、友達の紹介もあったし、コンパで出会って意気投合した男性もいた。付き合おうって言ってくれた人だって。

 けれど、どうしてか、いつもあと一歩が踏み出せなくて、結局付き合うまで至る人はいなかった。
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