クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 もういい大人なのに。私が悪いんだと思う。なにかが私には欠けている。私の恋人はナイトだから、と言い聞かせながら、欠けているものがなんなのか必死に考えた。

 でも結論は出なくて、いつのまにか仕事に追われることになって。

 それなのに、再会した幹弥とは、あっさりとこんな関係になって。忘れたいのに。忘れたはずだったのに。馬鹿みたい。

 ぎゅっと身を縮めたところで頭に温もりを感じた。

「今度、改めてデートしよう。優姫の行きたいところに付き合うよ」

 思ったよりも柔らかい声に、目の奥がじんわりと熱くなる。

「同情していただかなくて結構ですよ、桐生先生」

 それを誤魔化すように、口から出るのはひねくれた言葉。幹弥にとってはデートと呼ぶほどのものでもなかったのかもしれないのに。余計な気遣いや、からかいならいらない。

「同情なんてしてないよ」

 彼の声のトーンは変わらない。嘘。また私のこと可哀想だって思ってるんでしょ? そう言おうと、そっと顔を出して彼に目をやった。

「……なんで笑ってるの?」

 その顔はいつもみたいに意地悪な感じはない。笑みをたたえたまま、子どもをあやすかのように私の頭を撫で続ける幹弥に尋ねた。

「なにか欲しいものは?」

 けれど、返ってきたのは答えではなく、質問だ。そのことに少々腹が立つ。

「なら、この部屋ちょうだい」

 だからか、理由も特にないけど、ちょっと彼を困らせてみたくてそんなことを言ってみた。幹弥はなんて答えるだろうか……。
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