クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「さすがに、病人相手にこれ以上はしないよ」

 困ったように笑うので、私は涙目で幹弥を睨んだ。

「十分に節操なしでしょ、馬鹿」

「俺に馬鹿なんて言うのは優姫くらいだけど、今回は素直に受け取っておくよ。でもあまりにも優姫が可愛いから」

 そういう余計な発言はいらない。私は身を倒して彼に背を向けた。なにか言い返したいのに、もうそんな余裕もない。吐く息さえ熱くて、頭も重い。

「悪かったよ。俺は別の部屋にいるから、なにかあったら携帯鳴らして」

 私はなにも言わなかった。そして彼は私の頭を撫でる。

「おやすみ、優姫」

 それだけ言い残して彼は部屋から出て行った。ここは彼の寝室なのに、私がここにいたら幹弥はどうするんだろう。ほかに客室があるって聞いたことがあるけど、むしろ私がそっちを使うべきだったんじゃないか。

 あれこれ考えるけど、うまくまとまらない。ひとりになって落ち着いたからか、なんだか瞼が重くなってきた。

 恋人でもない私に、ここまで優しくしなくてもいいのに。それとも、ほかの女性だとしても彼はこうやって部屋にあげていたんだろうか。

 ふと、駅で見た光景が脳裏を過ぎる。彼女は誰だったんだろう。友人と呼ぶにはどう考えても距離が近いし、身内という感じでもなかった。

 ああ駄目だ。そういうのを考え始めたら。でも、彼女の存在で嫌でも意識せざるをえない。もう終わりにしないと。

 十年前と同じ、週に一度決まった場所で会うだけの関係。今日はそれが綻びた。これ以上は、もう危険だ。自分の中の警鐘がズキズキと痛みを伴って頭の中で鳴り響くのを私はじっと耐えて聞いていた。
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