クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 外に出ると、起きたときよりも空が白んでいて、寒いけれど空気が澄んでいる。熱が下がったとはいえ、さすがに体がまだだるいのでタクシーを拾うことにした。

 そのとき、ちょうどマンションの下でタクシーが停まったので、ついそちらに注目する。そして、中から降りてきた人物に私は息を呑んだ。

「もしもし、幹弥くん? 朝早くにごめんね。今は家にいる?」

 電話しながらマンションに向かって歩きだしたのは、昨日駅で幹弥に声をかけていた女性だった。朝からメイクもばっちりで、長い茶色い髪も綺麗に巻かれている。

 昨日とは違ってボリュームネックの可愛いAラインのモカ色のコートを着ていて、膝まであるロングブーツをカツカツと鳴らしながら、彼女は嬉しそうに笑っていた。

「うん。この前置いていったコートを取りに来たの。今から行ってもいい?」

 それ以降の会話は、距離ができて聞こえなかった。私はしばらくその場に佇む。

「早く……帰らなきゃ」

 自分に言い聞かせるように声にして、タクシーを拾う。よかった、さっさと彼の部屋を後にして。

 タクシーの後部座席に乗り込み、私は長く息を吐いた。そして、じゅくじゅくと胸の奥に広がる痛みに抵抗しようと必死になる。

 どうしよう。なんだか泣きそう。

 私だけじゃないのは知っていた。気づいていた。でも、ああも目の前で見せつけられると、やっぱり苦しい。彼女が、私とは正反対だったから余計にだ。

 十年前にも同じ気持ちを味わったのに。私はどこまで学習能力がないんだろう。傷つく権利さえ私にはない。

 だって、私たちは恋人でもないし、お互いに特別な存在というわけでもない。
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