クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 自宅に戻り、玄関のドアを開けたところで鞄の中に入れていた携帯が音を立てた。鳴らした相手は確認するまでもなく幹弥で私はおそるおそる通話ボタンを押す。

『優姫? 勝手にひとりで帰るなんてなに考えてんだよ。体調は?』

 早口で捲し立てるように告げられた言葉に私は反射的に肩をすくめた。

「……もう、大丈夫。熱も下がったし、幹弥寝てたから起こすのも申し訳なくて」

『そんな気遣いいらないだろ』

「ごめん」

 電話を持つ手に自然と力が入る。緊張して、脈拍が速くなったけれど、私は意を決して続けた。

「ごめんね、幹弥。もう家に行くのやめる」

『は?』

 驚きと不機嫌さの混じった声が電話の向こうから聞こえる。

「終わりにする、私は大丈夫だから。自棄になったりしない。だから……」

『急にどうしたんだよ? なにか気に入らなかった?』

 やや慌てた様子の幹弥に私はぐっと息を飲んで平常心を呼び戻す。

「『自棄になったりするくらいならまたおいで』って言ったのは幹弥でしょ? そういう話だったじゃない。私はもう平気だから」

「よく言うよ。そういう状態が自棄になってるんだろ。とにかく今のは聞かなかったことにするから。話はまた改めて――」

「改めて話すことなんてない!」

 余裕のある声色に私は苛立ちが隠せなくなる。おかげで突っぱねた言い方しかできない。それでも電話の向こうの彼はあくまでも冷静だった。
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