運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
ベネチアに降り立った悪魔


三月下旬。ついこの間大学を卒業したばかりの私は、親友と二人でイタリア旅行に来ていた。街も自然もキレイだし食事も美味しいし、出会った人々は陽気で優しくて、とても楽しい旅だったのだけれど。


「あーあ、今夜には飛行機に乗って帰らなきゃいけないんだね……」


滞在中のベネチア、その歴史ある石畳を歩きながら、私はため息をついた。今はまだ午前中で、日本に発つまでには時間があるとはいえ、最終日となるとどうしても名残惜しい。

イタリアには二週間前から滞在していて、色々な都市を見てきた。中でも最後に訪れたこの場所、水の都ベネチアを私はすっかり気に入ってしまい、できることなら旅行を延長したいと思っているほどだ。


「ごめんね美琴(みこと)。私が研修あるばっかりに」


隣を歩く親友、水越真帆(みずこしまほ)が申し訳なさそうに眉尻を下げる。大学の家政学部で知り合った真帆は栄養士として病院勤務が決まっていて、今月中にその研修が始まるのだそうだ。

私も同じ資格を持っているし、就職先も病院ではあるのだけれど……真帆とは少し、事情が違う。


「ううん、新社会人だもん、普通はそろそろ色んな準備したりする時期だよね。お気楽なのは私だけで」


頭ひとつ分背の高い真帆を見上げ、はは、と乾いた笑みをもらす。


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