運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~


副院長室の扉の前まで来た時、藍澤先生はドアノブに手を掛けようとして、なぜか途中でやめた。


「入らないんですか?」

「いや……先客? なんか、中から声がして」


そう言ってドアに耳を近づける彼。私もなんとなく気になって、お行儀が悪いと思いながらもドアに耳を当てる。

話の内容まではわからないけれど、ふたりの男女が言い争っているようだ。そしてどちらの声にも、聞き覚えがあるような……。


「ははーん、俺、なんとなく誰だかわかっちゃった。こっそり入って部屋の中でダイレクトに盗み聞きしようよ。かなりやり合ってるから、気づかれないよたぶん」

「え、盗み聞きなんて悪趣味ですよ」

「悪趣味上等。……なんたって俺、悪魔だしね」


いたずらっぽく片側の口角を上げたと思うと、本当にドアを開けて中に入って行ってしまう藍澤先生。


「ちょ、ちょっと……っ!」


結局私も彼の後を追い、ふたりでこそこそとソファの後ろに隠れた。言い合う男女はデスクのそばにいて、こちらには全く気付いていないようだ。


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