運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
前の病院での引継ぎが終わり、神鳥記念病院に勤務を始めてほんの数日。担当といえる患者はまだおらず、重要なオペの予定も入っていない。
これは、神様か何かが“迎えに行け”と言っているんじゃないか……?
そんな思いに駆られ院長に申し出ると、彼は『助かるよ』とあっさり承諾してくれた。
美琴ちゃんが宿泊しているというホテルの名前と場所を頼りに、俺はすぐに日本を発った。
ガラにもなく胸が早鐘を打って、ベネチアまで長時間のフライトにもかかわらずよく眠れなかった。
これが、運命の出会いというやつなのか……? なんて、非現実的な予感に胸が高鳴っていることに気が付くと、白馬の王子を待つ彼女とそう変わらないじゃないかと、自分に呆れてしまう。
その一方で、見たことも会ったこともない“運命の相手”にすっかり焦がれている自分も隠せなくて……。
*
「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが」
目的のホテルのすぐそばで、大きなキャリーバッグを転がす日本人らしき女性を見かけたとき、本能的に“この子だ”と察知した俺は、即座に声を掛けた。
長い髪をふわりとなびかせて振り返ったその子は想像以上の美少女。
俺は手元の地図を見せながらも、彼女の人形のように大きな瞳やきめ細やかな白い肌、小さく可愛らしい口元などに、目を奪われていた。