運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
* * *
「……副院長?」
窓の外をぼうっと眺め、美琴ちゃんとの初対面に思いを馳せていたそのとき。背後から、今まさに思い描いていた人物の声がして、俺ははっと我に返った。
振り返ると、このところすっかり秘書らしくなってきた、スーツ姿の美琴ちゃんが病室に入ってきて、俺の表情を窺う。
「戻ってくるのが遅いから、気になって。……早苗先生、退院しちゃいましたね。寂しくなるな」
抜け殻となった病室のベッドを横目に、美琴ちゃんが物憂げな表情でつぶやく。姉代わりだった北条先生がいなくなって、心細いのだろう。
でも、彼女の抱えていた事情をすべて美琴ちゃんに話すのは、躊躇われれる。ほかの方法で、元気づけてあげようかな。
俺はここが職場であることに構わず、その柔らかい頬に手を添えて、至近距離で瞳をのぞき込んだ。美琴ちゃんは途端に真っ赤になる。
「二人きりの時は、副院長っての、やめない?」
「で、でも……まだ病院にいるし、業務時間内だし……」
しどろもどろに言い訳をする彼女だけど、ちらっと壁の時計を見ると、ちょうど日勤の業務が終わる、午後五時を過ぎたところ。