運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
『藍澤くんの方から私の携帯に送られてきたんだよ。確かサン・マルコ広場の大鐘楼にて、と文章が添えてあったかな。肩なんか寄せ合って、父親としてはフクザツだが美琴が幸せそうで何より――』
「あの写真……! そういうこと、だったのね……」
呑気な父の声は途中で聞こえなくなり、私はがっくり肩を落とした。
そういえば、写真を誰にも見せないでと頼んだ時、彼は一瞬言いよどんでいた。きっと真っ黒な腹の中では“キミのお父さんに送っちゃうけどね?”と嘲笑っていたに違いない。
言葉巧みに正面から口説いてくるのと同時に、いざ真実を伝えても私が逃げられないよう、証拠写真で“父”という外堀まで埋めてあるなんて……どうしようこれ、私、絶体絶命じゃない?
たらりと冷や汗が頬を伝うのを感じていると、ふいにバスルームの扉が開く音がした。
ひいい、もう出てきた~! バスローブを身に着け、濡れた髪をタオルで拭きながら降臨した悪魔は、スマホを片手に怯えた顔をする私にニコッと微笑んでひとこと。
「美琴ちゃんも、シャワー浴びてきたら? 俺の痕跡いっぱいついてるし」
ちょっと! その意味深発言、父に聞こえたらどうしてくれるの……!