運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
案の定、無言で彼を睨みながら口をパクパクさせる私の耳に、電話の向こうから父の照れた声がして。
『そ、そうか、お前たちもうそんな関係に……ショックではあるが、孫の顔が早く見れると思えばいいかもな』
「ちょっと、お父さん! 違うの、聞いて……っ! 全部、悪魔が仕掛けたワナ――」
まくしたてるように弁解している途中、手の中からすっとスマホが消えた。
振り向けば、笑顔の裏に“余計なこと言うなよ”という冷たい感情が滲ませた悪魔が、私のスマホを耳に当てていた。
「あ、院長ですか? 藍澤です。ええ、申し訳ありません……あまりにも美琴さんが魅力的だったので……。もちろん、彼女を傷つけるようなことは一切してません」
よ、よくもいけしゃあしゃあと……。あなたのせいで、私の心はズッタズタよ!
恨みがましい視線を向けても、悪魔は涼しい顔で父と通話を続ける。
「ご家族と僕とで食事を? いいですね。奥様にもきちんとご挨拶させていただきたいですし。ええ、準備ができたらすぐに帰国します。二人で。では、失礼します」
二人で、という部分だけちらっと私を見て強調するように言った悪魔。“逃げるなよ”とでも言いたげな視線に、私はフン、とそっぽを向いた。
こうなったら、帰国してから父の前で直接悪魔の本性を暴くしかない。一日だけならいい人ぶってられただろうけど、すぐに尻尾を出すに決まってる――。