運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
悪魔と婚姻届
日本までのおよそ十二時間のフライトは、隣の座席にいる悪魔を拒絶するようにほぼ狸寝入りでやり過ごした。
当の悪魔さんも難しい顔で論文のようなものを読んでいたし、大して会話もせずに済んだけど、身体がバキバキに固くなっていてあちこち痛い。
空港ロビーに着き、憂鬱な気持ちのまま悪魔の少し後ろをトボトボ歩いていると、一人の男性が私に声を掛けてきた。
「お帰りなさいませ、美琴お嬢様」
「工藤さん……迎えに来てくれたんですか?」
パーマがかったショートヘアに、チャコールグレーのスーツ。アーモンド形の瞳を細めて優しく微笑んだその人は、父の秘書、工藤玲司(くどうれいじ)さんだった。
言動にいちいち色気を漂わせる悪魔と違って、サワヤカな好青年風の工藤さん。歳は三十歳で、いつも兄のように私の世話を焼いてくれる、優しい人だ。
見慣れたその笑顔に、ささくれ立っていた心が癒されていくのを感じる。
「ええ、ちょうど仕事の手が空いたので。荷物を貸してください、僕が持ちますから」
「ありがとうございます……工藤さんが天使に見えます」
「天使?」