運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
工藤さんがキョトンと目を丸くすると、黙って私たちのやり取りを見ていた悪魔が、クスクス笑いながら口を挟んだ。
「どーも、院長秘書の工藤さん。美琴ちゃん時差ボケでちょっと変なこと言ってるだけだから、気にしないであげて」
ちょっと、時差ボケのせいなんかじゃない! 私は本当に工藤さんの優しさがまばゆくて……!
私が反論する前に、工藤さんがスッと冷たい表情になって悪魔を見つめた。
「藍澤先生……本当に一緒だったのですね」
「あれ、残念そうだね? 自分が迎えに行きたかったのにー、って感じかな?」
そんな悪魔の発言をきっかけに、どうしてか二人の間に険悪なムードが流れた気がした。
「……勝手な憶測をしないでください。僕は単にお嬢様が心配だったんです」
「ふーん……まあいいけど。美琴ちゃんはもう身も心も俺のものだしね?」
ふっとこちらを向いた甘いたれ目の、とろけるような視線にごまかされそうになるけど、全然違うし!
「ちょっと、誤解されるようなこと言わないでください!」
「誤解? ベネチアでの熱い熱い一夜のこと、美琴ちゃんはもう忘れちゃったの?」
おおげさに嘆いた彼に、私の頬がカッと熱くなる。