運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「わーっ! もう! どうして他人の前でそういう話を……っ」
「俺は真剣だったのに、美琴ちゃんは遊びでああいうコトできちゃうタイプだったの?」
「違います! 違うけど……!」
「じゃあお互い本気だったってことでいいよね?」
にっこり微笑まれて、脱力する。ダメだ……この悪魔に口で勝てる気がしない。
実際、あの夜のあの瞬間は、本気だったんだもんね……後悔先に立たずとはこのことだ。
「お話し中失礼しますが、藍澤先生、院長がすぐに会いたいと仰っておりましたので、病院に向かわれてください」
「ああ、それなら挨拶がてら美琴ちゃんも一緒に……」
「いえ、お嬢様のことは僕がご自宅まで送り届けるようにとの指示です」
悪魔の提案をバッサリ切り捨てた工藤さんは、「では」と短く告げると私のキャリーバッグを転がしながら歩き出す。
「あ、待ってください」
工藤さんの後を追いながらちらっと悪魔の方を振り返る。けれど悪魔はもう私のことを見てなんかおらず、それはそれでムッとした。
お互い本気だったなんて、どの口が言うんだか。どうせ、私と結婚することで何か仕事上のメリットがあるってだけなんだろう。
いわゆる、政略結婚ってやつだよね……。憧れていた運命的な恋愛とは、まるで真逆じゃない。
そこまで考えるのと同時に、自分の中に思い描いていた未来予想図が、ガラガラと音を立てて崩れ去っていくのを感じた。