運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~


到着したのは、銀座の中華料理店。家族では一度も連れてきてもらったことのない高級なお店で、いたるところに金色の装飾が施された内装に目がチカチカした。

店の奥にある個室に通されると、職場から直接来たらしい父と藍澤先生がすでに席につき、ふたりで談笑していた。

藍澤先生はピシッとしたスーツ姿で、私服だったベネチア旅行中とはまた違った大人の雰囲気。そんな彼と一瞬目が合い、私にだけわかるように微笑まれると、不覚にもドキッとしてしまった。

……いやいや惑わされるな。彼の目的は院長の椅子。私なんて出世の道具の一つとしか思ってない悪魔なんだから。


「こんばんは~、初めまして藍澤先生、美琴の母です」

「初めまして、お母さん。藍澤天河と申します」


愛想よく挨拶をした母に対し、藍澤先生はスッと椅子から立ち上がり、丁寧に頭を下げた。


「あらっ。お母さんだなんて……嬉しいわぁ。藍澤先生みたいな有能かつイケメンな息子ができて」

「ありがとうございます。そのジュエリー、とってもお似合いですね」


悪魔な本性の片鱗など見せず、完璧なスマイルで母のネックレスを褒める彼にはもはや感心してしまう。きっと父だけでなく、母も囲い込もうっていう作戦なんだろう。

私としては、“有能”も“イケメン”も否定しない辺り、ちょっと腹黒さが透けてると思うんだけど……両親が気付く様子はない。



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