運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「まぁ、よく気が付くのねえ。女性のファッションに関心がある旦那様なら、結婚しても張り合いがあって、いつまでも美しくいられそうね」
「きっと院長もそうなのでしょう? その美貌を見ればわかります」
「もう! ほんとにお上手なんだから」
母は甲高い声でおおげさに感動したあと、私を肘でつついてこそっと耳打ちする。
「……やっぱり、美琴ももっとお洒落してくればよかったのに」
「どうせお世辞だよ」
「つまらない子ねえ……まあいいわ。とにかくあなたは藍澤先生の隣に座りなさい」
「えっ」
父と藍澤先生は、白いテーブルクロスのかかった長方形のテーブルで向かい合って座っている。その隣がそれぞれ空いているけど、普通に考えたら父の隣は母。つまり私は、悪魔の隣……いやだ。もうすでに逃げたい。
「どうぞ、美琴さん」
そんな私の気持ちを見透かしてか、まるで逃げられなくするかのように、椅子を引いてくれる藍澤先生。父と母の目にはさぞ紳士的な姿に映っていることだろう。
ただのポイント稼ぎだよ、と心の中で毒づくけれど、この状況で口に出す勇気はなく、素直に席に着くしかなかった。