運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「では、二人の幸せな結婚と我が神鳥記念病院のますますの発展を祈って」
父が乾杯の音頭を取り、食事会はスタートした。
父が頼んだらしい、フカヒレやら北京ダックやらアワビの姿煮やら、贅沢なご馳走がテーブルにどんどん並び、下がりっぱなしだった私のテンションもようやく浮上してきた。
料理のお供には、父と母がビール、そして私はあんず酒を頼んでほろ酔いになっていたけれど、藍澤先生だけがウーロン茶。
大人っぽい言動や端正な容姿から、なんとなくワインでも嗜んでいそうなイメージだったけれど、意外とアルコールに弱いのだろうか。
そんなことを思いながらぼんやり隣の彼を見ていたら、何?と尋ねるような微笑みを向けられた。
「……いえ。お酒、飲まないのかなって」
「ああ、本当は好きだし飲みたいけどね。いつ病院から呼び出しがあるかわからないから」
「……なるほど」
酔っぱらった医者に手術なんかされたら堪ったもんじゃないもんね。と納得しつつ、今度は別の疑問が湧く。
あれ? じゃあもうひとりのお医者さんは?
「お父さんは普通に飲んでていいわけ?」
「ん? 俺はもうほとんど現場を離れてるからいいんだ。呼び出しには藍澤くんが応じてくれるようだしな」
冗談交じりに言った父に、藍澤先生も笑って「ええ、任せてください」と答える。
ふうん……院長ともなるとそういうものなのか。それにしても、父の藍澤先生に対する信頼は確かな物らしい。