運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「よく言った! 藍澤くん!」
「美琴……本当に素敵な人に巡り合えたわね。大丈夫、私とお父さんもお見合いでこんなにラブラブになったんだから……今は不安でも、うまくいくわ」
テーブルの向こうから両親の感激の声が聞こえ、藍澤先生はパッと私から手を離して二人に頭を下げる。
「院長……いや、お父さん、お母さん。ありがとうございます。美琴さんのことは僕が必ず幸せにして見せます」
両親から拍手が送られ、悪魔がしらじらしくはにかんで頭を掻く。……私は、一体何の茶番を見せられているのだろうか。
しかし呆然とする娘に全く気付いていない父は、「よし、もう一度乾杯だ!」とグラスを掲げて上機嫌。母はというと、感動のあまりハンカチで目頭を押さえている。
……完全に、悪魔にしてやられた。
自分の意思を表明するタイミングをすっかり失った私は、脱力して椅子の背もたれに寄りかかる。すると追い打ちをかけるように、耳元で悪魔がささやいた。
「大丈夫。……すぐ俺に溺れさせてあげるよ」
吐息交じりのその声に、またしてもぞわぞわしたものが背筋を走る。
悪魔なんかに溺れるもんか!と自分に言い聞かせつつも、心臓はありえないほど激しく脈打っていた。
なんでこんな奴にドキドキするのよ! やだ。こんなの、私じゃない……っ。
ずっと運命の相手を一途に待ち続けていたはずが、今や悪魔の一言一句に翻弄されているなんて……。
その事実を認めたくなくて、私は暴れる心臓を必死になだめるのだった。