運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
パタンと扉が閉まると、急に訪れた静けさに居たたまれなくなる。早苗先生のことも気になるけど、悪魔とふたりきりという緊張感に耐えられない……!
「じゃ、そろそろ私も帰ります……」
どさくさに紛れてこの場から逃げ出そうと、腰を上げる。しかし、すかさず藍澤先生の手に腕を掴まれ、強引にソファに引き戻された。
「きゃ……っ」
バランスを崩した私は仰向けに倒れ、その上に藍澤先生が覆いかぶさる。
私を見つめる薄茶色の瞳は煽情的に細められていて、かすかに微笑んでいる口元からは、今にも「いただきまーす♪」と聞こえてきそうだ。
ちょっと、この体勢、やばい! 悪魔に襲われる!
「先生っ、仕事中なんじゃ……!」
「んー? さっき大きなオペ終えたから、ちょっと休憩。可愛いフィアンセと戯れる時間くらいならあるから、安心して?」
いやいや、むしろそっちのほうが不安だってば!
そんな私の胸中が伝わるはずもなく、悪魔は楽しそうに、私の頬にかかる髪の毛をよけて、親指で唇をツツっとなぞった。
優しいタッチにドキッとしていると、彼はそのまま唇の感触を楽しむようにふにふに指で押しながら、甘えた声で尋ねてくる。
「ねえ、キスしていい?」