運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「ダ、ダメですっ……!」
「嘘。……して欲しそうな顔してるから、するよ」
「ちょっ! 聞いた意味、全くない――――ッ」
抗議の声は、藍澤先生の唇に塞がれてしまう。私はぎゅっと目を閉じたけれど、そうすると逆にキスの感触が鮮明に感じられてしまい、全身が沸騰したように熱くなった。
うう、この人のキス……ダメなんだってば。思考能力を奪われて、体がいうことを聞かなくなる。まるで、唇から甘い毒でも注入されてるみたい……。
長いキスの後、ようやく離れていった藍澤先生は、ぼうっとしたまま起き上がれない私を見て満足げに微笑む。
「俺のこと“悪魔”だと思ってるのに、そんな無防備にとろけそうな顔しちゃっていいの?」
その発言に一気に我に返った私は、ずざざ、とソファの端に後ずさりし、藍澤先生を睨みつける。
「セッ、セクハラ!」
「いやいや、合意の上ってやつでしょ。なんなら美琴ちゃんの心臓の音、聞いてみようか? きっと、俺とのキスでドキドキしてるはずだよ」
げっ。それは困るかもしれない。言葉では取り繕えても、脈拍までコントロールできるわけないし、医者の耳を誤魔化せるとも思えないし……。
ハラハラしながら身構えていると、藍澤先生が白衣のポケットから聴診器を取り出す。イヤーチップを両耳にはめ、肌に当てる丸い金属部を私の方に向けたかと思うと、にっこり笑ってひとこと。