運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「じゃあ、脱ごうか」
な、なんですと……?
私は一瞬固まってから、自分の両腕を抱きしめるようにして拒否の意思を示した。
「やっぱりセクハラ目的じゃないですか……っ!」
「あれ? 心外だな。俺は心臓専門の医者だよ? 正確な心音が聞きたいときは、直接肌に当てるのが原則。……ま、美琴ちゃんがドキドキしてるのはこれで聞くまでもないから、今回は見逃してあげるよ」
藍澤先生は、クスクス笑ってあっさり聴診器をしまい直す。どうやら、本気で私を診察する気はなかったらしい。
「またからかいましたね……? ホント、藍澤先生って嘘ばっかり!」
フン、とそっぽを向いて口をとがらせる私に、さすがの藍澤先生も少し反省の色を見せて謝った。
「ゴメン、調子に乗りすぎた。代わりにいいこと教えてあげるよ。確かに美琴ちゃんにはいくつも嘘をついたけど、ひとつだけ嘘じゃないことがあるんだ」
「……なんですか? 実は医者兼画家とか? そんなわけないですよね」
「そう怒るなって。ほら、こっち向いて」
頬に手を添えられ、まっすぐに見つめられた。
どうしたのよ、悪魔のくせに珍しく真面目な顔しちゃって……。内心どぎまぎしながら、彼の言葉を待つ。
すると藍澤先生は言い聞かせるようにゆっくり、言葉を紡いだ。