運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
考えていたことと全く逆の情報に、思わず疑いの声を上げてしまう。
悪魔と親しかった人が言うなら、本当なのかな……そういえば、父の評価もそんな感じだったっけ。
でも、早苗先生に対する彼の態度や発言は、明らかに出世欲がにじみ出ていたし……うーん、まだ半信半疑だな。
「ちなみに、“女癖の件はともかく”――なんだね?」
親しい人の話でもそこは覆らないんだな、と苦笑する。
「まあ、モテたのは確かみたいね。で、わりと来るもの拒まずだから、誤解も多く生んでたって、その先生は言ってた」
来るもの拒まず、か……。藍澤先生らしいといえばらしいけど、なんかやだな……。
胸に何かがつかえるような気がして、私はそれを流し込むようにジョッキに残っていたビールをあおる。
けれどぬるくなっていて全然美味しくなく、嫌な苦みだけが舌の上に残った。
「ところで美琴、その婚姻届って今も持ってる?」
「え? うん……なんか、肌身離さず持ってないと勝手に代筆されたりしそうで怖くて」
特に、うちの両親とかにね。なんて胸の内で呟きながら、バッグからクリアファイルを出し、例の婚姻届をテーブルに広げた。真帆が一気に目をキラキラさせて食いつく。