眠らせ森の恋
 



「奏汰さん」
とつぐみは風呂に入っている奏汰に呼びかけた。

「あのー、奏汰さん、この間、お風呂でお酒とか呑みたいって言ってましたよねー」

 すると、
「どうした。
 持ってきたのか、気が利くな」
とすりガラスの向こうから声が反響する。

 うむ、いるのか。

 いらないと言ったときのために、開けないまま持ってきたんだが。

「了解です。

 でも、美味しいワインはこの間呑んじゃったので。これは、車屋さんが車検に出したお礼にって、さっき持ってきてくれた奴なんですよ。

 安物ですがって笑いながら持ってこられたので、味はよくわからないんですけどね」
と言いながら、つぐみはワインを開け始めた。

 が、固くてなかなか動かない。

 つぐみがワインオープナーを手にのたうち回っているのに気づいたらしい奏汰が、
「……貸してみろ」
と言う。
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